■大賞
情報公開クリアリングハウス(代表 三木由希子様)
情報公開クリアリングハウスは、1999年情報公開法が施行されたことを機に、「情報公開を求める市民運動」を改組し、制度を活用して情報公開請求をする市民のサポートや、啓蒙活動を行ってきました。
情報公開クリアリングハウスは、政府や地方自治体の制度運動に関する問題点を指摘するとともに、不服申立や行政訴訟を行い、市民の知る権利を拡大させるための活動を行っています。
最近では、秘密保全法有識者会議の議事録や関係記録の開示を求め、同有識者会議が官僚の事務局主導で行われていたこと、議事録をあえて作成しないなど秘密主義で行われてきたことを明らかにしました。
東京電力福島第一原子力発電所事故に端を発した38,114人の福島の子どもたちに対し行われた、県民健康管理調査において作成された市町村別甲状腺検査結果一覧表の文書開示の成果を獲得しました。これは、子どもたちの健康を守る上で重要な一歩ともいうべき、知る権利の前進となりました。
これらの活動は、公正な情報の流通促進を実現するものとして大賞にふさわしいものと考え、情報公開クリアリングハウスに情報流通促進賞大賞を贈ることとさせていただきました。
■奨励賞
CRMS(市民放射能測定所 代表 丸森あや様)
丸森あやさんは原発事故後、福島のこどもたちの命と健康を守りたい、内部被曝を防ぎたいと考え、事故直後から活動に立ち上がり、仲間とともに市民放射能測定所(CRMS)を2011年7月に設立するに至りました。
CRMSは、東京電力福島第一原子力発電所事故による放射能汚染について、市民自らが立ち上がって放射線による健康被害を最小限に食い止めることを目的に、フランスの市民放射能測定組織(CRIRAD)や京都大学原子炉実験所の小出裕章氏など内外の専門家と協力して設立されました。そして、ホールボディカウンターによる内部被ばく測定、食品の放射能測定、情報提供、研究会や講演会の開催、子ども健康相談会の開催などの活動を展開してきました。
とりわけ、CRMSは、高いレベルの放射線検査体制を整備し、2011年7月から約1年半の間に10ヶ所の測定所で5種類20台の測定器が使用され、合計で6886件の食品の放射能汚染測定が行われ、2013年4月にはその測定結果が公表されました。2013年5月には福島県立図書館の駐車場・吹き溜まりで、1キロあたり28万ベクレル、福島市立公会堂の駐車場・吹き溜まりにあった土壌からも同43万ベクレル超を超える放射性セシウムが検出されたことを公表し、広範囲に広がる放射能汚染の実態に警鐘を鳴らしました。市民自身の手によって正確な放射能汚染の実態について「知る権利」の実現をめざす活動は、まさに「情報流通促進賞」の名にふさわしいものと言えます。
福島原発告訴団(代表 武藤類子様)
武藤類子さんは福島で養護学校教員をつとめながら、チェルノブイリ原発事故を契機に1986年ごろから脱原発運動に携わるようになりました。2003年、喫茶店「燦(きらら)」を開店し、環境にやさしい暮らしを提唱してきました。2011年には東京電力福島第一原子力発電所1号機が稼働してから40年を迎えることで「ハイロアクション福島四十年実行委員会」を立ち上げ、福島の原発の早期廃炉を訴える活動をはじめようとしていた矢先に東京電力福島第一原子力発電所事故に遭いました。
2011年9月19日、6万人が集まった「さようなら原発集会」でのスピーチで、事故による避難や賠償をめぐって引き裂かれる福島の人々の実情を切々と訴え、多くの人たちに感銘を与えました。このような深刻な人権侵害を引きおこした福島原発事故の刑事責任のありかを明確にするため、この国に生きるひとりひとりが尊重され、大切にされる新しい価値観を若い人々や子どもたちに残せるように、手を取り合い、福島の市民がまず立ち上がるべきだとして、2012年3月16日に福島原発告訴団を結成し、2012年6月11日に、福島県民が中心となり、東京電力役員と政府関係者を刑事告訴しました。福島原発告訴団は、2012年11月の第二次告訴も併せると、全国から合計約1万4000人の告訴・告発人を集めました。さらに10万人を超える賛同署名も集め、責任を明らかにするための資料を提出するなど捜査に協力し、東京地検・福島地検に対して強制捜査と起訴を求める激励行動を組織するなど、市民の手で事故の刑事責任を明らかにする取り組みを果敢に進めてきました。
事故発生前から福島県内で原発の廃炉を求める活動を続けてきた武藤さんが先頭に立ち、全国をくまなく歩いて告訴・告発人と賛同者を集めた丁寧な運動づくりがこのような活動を可能とした「かなめ」です。以上の活動は国民主権の実現に資する活動として、「情報流通促進賞」の趣旨にふさわしいものと考えます。
■特別賞
東京新聞「こちら特報部」(代表 野呂法夫様)
東京新聞「こちら特報部」は、東京電力福島第一原子力発電所事故が発生以降、多くのマスメディアが政府・電力会社の発表に依拠した報道に終始して「大本営発表」の批判を浴びる中、読者の疑問に応えようとする連日の原発関連報道で数々のスクープを放ち、他の追随を許さぬ一連の報道活動を大著『非原発』にまとめました。最近では、原発事故損害賠償における時効特例法案の不十分性を1面で指摘し、すべての被災者が賠償請求権を行使できるよう、本年度中に何らかの法的措置を検討することを政府に求める付帯決議を全会一致で採択させることにつながる流れを生みだしました。また原発関連報道以外でも、既存のマスメディアとは違う角度から様々な問題を報道されてこられました。
マスメディアという立ち位置からのオルタナティブな報道は、まさに豊かな情報流通を促進するものであります。一人の個人が政府及び大企業と対峙して情報を入手して発信するには限界があります。これは、マスメディアという組織体が、市民の側にたって権力を監視する役割を要請される所以でもあります。
「こちら特報部」の紙面は、市民の側に立って権力を監視するというマスメディアの忘れられた存在意義を体現しています。その揺るがぬ報道姿勢は、表現の自由・情報公開・国民主権の推進を目的とする「日隅一雄・情報流通促進賞」における「特別賞」の趣旨にふさわしいと考えております。
2013.6.12
日隅一雄・情報流通促進賞 選考委員会