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日隅一雄・情報流通促進賞2026大賞決定

 今回で14回目を迎える日隅一雄・情報流通促進賞2026の大賞は、公安警察が犯罪事実をねつ造するという極めて悪質な事件の犠牲となった相嶋静夫さんの家族、相嶋一登さんによる「大川原化工機事件で死亡した父の死の真相を明らかにするための活動」に決定しました。

 

 奨励賞には、長崎市の私立学校で起きたいじめ自殺事件を追った調査報道、石川陽一さんによる、報道の自由を求める一連の闘争および書籍「記者迫害 崩れゆくジャーナリズムの現場から」の執筆活動と、米国による核実験の深刻な影響に光をあてた伊東英朗監督による、米国での映画「サイレント・フォールアウト」上映活動が選ばれました

 

 特別賞には、中部電力による浜岡原発のデータねつ造を明らかにした、匿名の通報者による、浜岡原発の設計基準地震動の策定過程でデータの捏造が行われていることを公益通報した活動と、2025年3月に100年の節目を迎えた日本の放送を多角的な視点から描いた、原真さんによる、「音と光の世紀 ラジオ・テレビの100年史」執筆をはじめとしたメディアに関する長年の多彩な報道活動が選ばれました

 

◆表彰式は以下の要綱で6月13日に開催いたします。

【日時】6月13日(土)開場14時 表彰式 14時半~15時半ころ 

【場所】アルカディア市谷

https://www.arcadia-jp.org

【参加費用】:無料(どなたでもご参加いただけます)

 

 

【大賞(副賞50万円)

相嶋一登さんによる大川原化工機事件で死亡した父の死の真相を明らかにするための活動」

 大川原化工機事件は、政府の掲げたいわゆる経済安全保障政策を先取りする形で、公安警察が犯罪事実を「ねつ造」した極めて悪質な事件です。そればかりか、強引に起訴に持ち込もうとする司法のプロセスにおいて、警察、検察、裁判所の組織の硬直性と「無謬性」への固執が冤罪を生み出す実態を浮き彫りにしました。明らかになったのは不当な長期拘束に留まらず、拘束下にある人間の健康や生命に対し、誰も責任を果たそうとしない日本の刑事司法システムの欠陥そのものです。

 

 このシステムの犠牲となった相嶋静夫さんの死を巡り、遺族は警察や検察を追及するだけでなく、従来「聖域」とされてきた裁判官の責任をも裁判を通して正面から問いかけます。病状を知りながら保釈を認めなかった具体的判断の是非を問うこの闘いは、司法の有り様を根本から揺さぶるものです。同時に、刑事施設の劣悪な医療体制や「人質司法」という構造的問題に対し、制度改善を求めて声を上げ続ける活動の社会的意義は極めて大きく、再審法改正をめぐる動きにも多大な影響を及ぼしています。

 

 そして、注目度の高い事件の当事者家族が「媒介」となり、他の冤罪被害者や長期勾留の当事者、支援者、医療関係者らを結びつけ、連帯の輪を広げています。当事者の痛みを起点としたこの多角的な活動は、一事件の真相究明を超え人間の尊厳を守るための普遍的な権利擁護運動へとなっており、公正な情報の流通を促進するという本賞の趣旨に合致すると考えます。

 

【奨励賞(副賞30万円)

石川陽一さんによる、報道の自由を求める一連の闘争および書籍「記者迫害 崩れゆくジャーナリズムの現場から」の執筆活動

 文藝春秋から刊行された『いじめの聖域』は、長崎市の私立学校で起きたいじめ自殺事件の深層を明らかにした、優れた調査報道です。そこには、いじめを認めず事実を歪曲する学校側、それを追認する行政と司法、さらには事態を容認する長崎新聞の動きまでが、構造的な問題として鮮明に描き出されていました。

 

 しかし、この著作の刊行を端緒として、当時、著者が記者として籍を置いていた共同通信社に対し、長崎新聞から抗議がなされ、これを機に著者は報道機関である組織から理不尽な追及を受けることになります。事実上の左遷ともいえる異動、そして懲戒処分。取材し、書くことそのものを封じられ、最終的に共同通信社を去るに至った自らの境遇を、冷静かつ抑制的な筆致で記録・分析したのが『記者迫害』です。

 

 伝えるべき真実を記事にするというジャーナリストの使命が、所属組織によって抑圧される。それはジャーナリズムの自殺行為に等しい。組織が経営上の利害を忖度し、「自らの無謬性」を盾に、編集権を捻じ曲げる理不尽な対応を強行した過程を記録し、抗い続ける著者の活動は、私たちに多くの示唆を与えます。その不屈の姿勢は、報道機関に限らず同じく組織の不条理に直面し、孤立や離脱を強いられている多くの人々にとって、一筋の希望であるとともに勇気を与えるものであり、公正な情報の流通を促進するという本賞の趣旨に合致すると考えます。

 

・伊東英朗監督による、米国での映画「サイレント・フォールアウト」上映活動

 伊東英朗監督による映画『サイレント・フォールアウト』(2023年)は、2025年4月に同名の書籍も出版されました。かつて米国が行った核実験は、ビキニ事件で注目された太平洋上に留まらず、米国内でも大規模に実施されていました。本作は、米国内における核実験の被曝とその深刻な影響に光を当てたものです。自国内ですら知られざる事実を広く伝え、議論を喚起するために、米国全土での上映プロジェクトが敢行されました。

 

 核実験によって米国内に多くの被害者が存在するという「起点」を提示し、核開発の問題を市民が自分たちの等身大の問題として議論する場を作る。こうした草の根の取り組みは、草の根運動として学ぶべき点が多々あることも示唆する極めて高い社会的意義を持つ活動であり、公正な情報の流通を促進するという本賞の趣旨に合致すると考えます。

 

【特別賞

匿名の通報者による、浜岡原発の設計基準地震動の策定過程でデータの捏造が行われていることを公益通報した活動

 中部電力による浜岡原発の再稼働審査において、地震の揺れの目安となる「基準地震動」の策定データが意図的に操作されていた事実は、公益通報によって明らかになりました。事の経緯は深刻です。2020年に社内でデータ不正が内部通報された際、中部電力はこれを顧みず、不正なデータに基づいた基準地震動が原子力規制委員会に了承される事態を招きました。その後、再稼働審査が進む2025年2月、改めて規制委へ公益通報がなされたことで事態は動きました。報道によれば、規制委は同年5月に通報者への聞き取りや中部電力への事実確認を実施。これを受け、12月に中部電力が不正を報告し、2026年1月の公表を経て、規制委による対応協議へと至りました。

 

 自浄作用が働かず、不正データに基づき審査が進行していたという事実は、公益通報がなければそのまま再稼働が容認されかねなかったことを意味しており、極めて危うい状況でした。今回の件は、原子力規制の在り方に大きな一石を投じるものでもあります。社会に対する責任が欠如した組織の不正行為を看過せず、問題解決のために情報を提供した公益通報者の行動は、優れて公共の利益に資するものであり、民主主義社会における市民の勇気ある規範として、公正な情報の流通を促進するという本賞の趣旨に合致すると考えます。

 

原真さんによる、「音と光の世紀 ラジオ・テレビの100年史」執筆をはじめとしたメディアに関する長年の多彩な報道活動

『音と光の世紀』は、2025年3月に100年の節目を迎えた日本の放送を、技術・社会・政治・制度、そしてビジネスの変遷という多角的な視点から当事者や関係者の証言を交えて生き生きと描いた、あまり類例がない通史です。共同通信記者として長年放送取材に携わった経験と蓄積が、本書の大きな柱となっています。具体的な番組名や当事者や関係者の貴重な証言を交えて描かれるストーリーは、「音」と「光」の受け手である一般読者にも極めて読みやすい、軽やかにして、確かで重厚な一冊となっています。

 

 こうした書籍が生み出されたのは、これまで取材を通してメディアの問題に切り込み続けてきたからに他ならず、これまでのそうした取材活動も特筆に値します。メディア環境が激変する今、「民主主義を支える情報基盤としての放送」について、私たちが考えるために不可欠な情報を発信するもので、公正な情報の流通を促進するという本賞の趣旨に合致すると考えます。